現代日本画家・大竹寛子とのコラボレーションが魅せる世界

SAKE HUNDREDは、現代日本画家・大竹寛子氏とコラボレーションした限定商品『百光 HIROKO OTAKE EDITION』を発表。2021年5月20日(木)より420本のみの限定抽選販売を行っています。その背景とそれぞれの想いを、大竹氏とブランドオーナー生駒龍史の対談を通しお伝えします。

現代美術家・大竹寛子
2006年東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業、2011年同大学大学院美術研究科博士課程日本画研究領域修了、美術研究博士号取得。2014年東京藝術大学 エメラルド賞 受賞。2015〜2016年文化庁新進芸術家海外派遣制度によりニューヨークに滞在。2019年ローマ教皇来日に伴い、バチカン市国に作品「Psyche」を寄贈。長年研鑽を積んだ日本画の伝統的な技法を基に、箔や岩絵具を用いて新たな表現を展開し、国内外で高く評価されている。

アートとラグジュアリー

—— コラボレーションの背景

生駒:SAKE HUNDREDは「そのすべてが満ちていく。」というブランドステートメントを掲げています。これまでの日本酒が、基本的に“味覚”だけを満たしてきたのに対し、私たちは味覚のような機能的価値にとどまらず、情緒的価値を含めお客様に提供するという意志を表しています。

そのためには、お酒そのもの——つまり、グラスの中だけでは不十分。グラスの外から得られる充足感、体験、印象といったものが欠かせません。SAKE HUNDREDではかねてより、“グラスの外の価値”にも力を入れてきました。

そのひとつとして、以前から考えてきたのがアーティストの方々との協業です。彼らとコラボレーションすることが、ブランドの提供価値をより目指す方向へ近づけると考えていました。

大竹:今回のコラボレーションは、SAKE HUNDREDを以前より応援している共通の知人が紹介してくださいました。とてもよいご縁をいただいたと感じましたが、以前からアートへの興味を伝えていたんですか?

生駒:いえ、直接伝えてはいなかったと思います。ただ、以前から「ラグジュアリーをやるなら絶対アートに触れなければいけない。かつ、触れるなら一流でオリジナルなものを」と言っていたので、言葉は交わさずとも、共通の認識があったのでしょう。

“無視できない何か”との対峙

——大竹作品との出会い

生駒:大竹さんの作品を最初に目にしたのは、ご紹介いただいたWebサイトだったと思います。その段階で心を惹かれたのですが、その後足を運んだ展示「巴里を魅了する和の九人展」が、本当の意味で「対峙した」機会だったと思います。

強烈に記憶に残っているのが、「今まで向き合ったことのないものと対峙している」という感覚です。今はそう振り返られますが、最初は「自分が何を感じているか」も表現できないほどでした。

自分がこれまで経験してきたものを駆使しても説明できない、自分の物差しを圧倒的に上回る何かと対峙している感覚でした。衝撃のような、感動のような、畏怖のような。「この作品を無視できない、素通りできない」という緊張感がありました。

大竹:アートは今までにない新たな「切り口」や「世界」を見せるものなので、その感想は嬉しいです。一般的には、これまでに経験したことのない感覚や違和感に触れると、嫌悪を示す人も少なくありません。その中でも前向きに捉えてもらえたのは、アートと共鳴する部分があったからなのかもしれませんね。

生駒:SAKE HUNDREDのコラボレーションを考えるうえで、「これだけはしない」と決めていることがあります。それは、どんなに素晴らしいご経歴や格のある方でも「自分の心が動かされないこと」はしないということ。

端的に言えば、「ブランドとしての格を上げる」「売上を伸ばす」ためコラボレーションをしていないか?を問うという意味でもあります。私たちは、自身が「本当によい」と思える日本酒だけを造っています。だからこそ、自分たちが心の底からよいと思えないことを行うのも違うのです。

大竹さんの作品には、間違いなく心が動かされていた。だからこそ、展示を見た直後から「ご一緒したい」と心に決めていました。

伝統のうえに立つ挑戦

——SAKE HUNDREDとの共通項

大竹:私はお酒全般が好きなので、日本酒のお仕事という点だけでも嬉しかったです。その上で、いろいろSAKE HUNDREDのことを知るなかで、今までにない切り口のブランドづくり取り組まれている点に共感を覚えました。加えて、共通点も多く見つかりました。

たとえば、両者とも「日本」と名のつくものに取り組んでいる。伝統がある一方で、良くも悪くも固定されたイメージが付与され、捉え方によってはしがらみにもなる。その中で、両者とも新たな挑戦をしていると感じました。

例えば、日本画の場合、「日本画らしさ」が問われることがあります。ですが本来、日本画は油絵や水彩画、銅版画などと同じく、岩絵具で描かれる絵画技法のひとつにすぎません。ですが、「日本」と付くことで、日本を背負うと思われる。もちろんそういった側面もあって然るべきですが、「だからこうすべき」という考えは不要だと思っています。

生駒:非常に共感するお話です。私たちも、「日本酒じゃない」までは言われないものの、今までなかったものに取り組んでいることは間違いありません。金額はもちろん、情緒的価値を重視したり、ブランドというアプローチもそうです。

ただ、私たちはシンプルに「それだけの価値がある」と考えるから取り組んでいる。それを評価できるのはお客様だけですから、周囲の声は関係ありません。

他方で日本酒は、お米に水、造り、蔵人......と、お酒一本が生まれる中にも本当にたくさんの要素や物語が存在する。日本酒を紹介することは日本を紹介することと言っても過言ではありません。その意味で、私たちは「日本」を背負っているとも考えています。

大竹さんはプロフィールに「現代日本画家」と入れられています。その肩書きにも、確固たる意志を感じます。

大竹:日本酒は表記のルール上、日本酒と言わなければ販売できないと思いますが、日本画は「現代アートです」と言えば現代アートとして販売できます。かつ、そのほうが理解されやすく値がついたりすることもある。現代アートのキュレーターやギャラリストの方には「なぜ日本画と言うのか」と言われることもありますが、私自身、そこを手放すのは違うと考えています。

流動的瞬間の中にある恒常性

——作品に込めた意図

大竹:私の作品は「流動的瞬間の中にある恒常性」を一貫したテーマに掲げています。

動的平衡のように、絶えず変化し続けるからこそ現在の自分を維持できていること。春夏秋冬と繰り返される季節も、同じようで去年と同じではないこと。流動的であることと相反する恒常的であることが、同時に存在する関係の中にこそ真理があるのではないか、と作品を通して模索しています。

今回の作品『Spiral –Flowers and Butterflies- Vol.8』は、百光からインスピレーションを得て、日本画の技術を用いて自然の摂理や循環、また自然と人とのつながりをテーマに描いています。

自然界にある植物や貝殻などに隠されている、さまざまならせん構造を参照し、花や蝶をらせん状に配置しています。この構造を、私は生命力や成長の象徴であると考えています。

花は生命の「循環」の象徴。蝶は「変化と成長」の象徴として描きました。今回は百光の生産地でもある山形県庄内地方に生息するアオスジアゲハも描いています。

またこの作品は銀箔を全面に貼り、銀の成分を硫化させながら描く技法を用いています。これは、花の枯れゆく様を素材自体の”硫化”という物質的表現と重ねて表しています。こうした自然の摂理は、日本酒にもつながるのではないかと考えています。

生駒:まさに、「流動的瞬間の中にある恒常性」というテーマ自体が日本酒的だと感じました。

「春夏秋冬と繰り返される季節も、去年とは同じではない」というのも、日本酒造りにも通じます。毎シーズン秋から冬にかけてお酒をつくるのですが、その年ごとのお米の成長度合や、環境、気温、技術......多様な変数の掛け合わせによってお酒は造られるので、まったく同じお酒は二度と造れません。

ただ、それでも百光は百光なんです。厳密な成分値は違っても、「百光だ」と思える味になる。毎年変化の中にあるけれど、変わらない価値を届け続けているという意味で、「流動性の中の恒常性」は、私たちをも表している言葉だと感じています。

日本画とプリント、それぞれが作品

——完成した『百光 HIROKO OTAKE EDITION』について

生駒:作品を見たとき、感動はもちろんですが、同時に「どうしよう」という気持ちも強かったです。「すごいものが生まれてしまった」という感嘆に近いかも知れません。

それと同時に、SAKE HUNDREDがアーティストとご一緒することにも確信を持ちました。「”すべてを満たす”ためには、絶対に取り組むべきものだったんだ」と。箱を開けた瞬間に「わぁ」と声を上げる姿や、お酒を飲みながらラベルやパッケージを眺める姿が目に浮かびましたね。

大竹さんは校正段階で何度もやりとりさせていただきましたが、完成品は初めてご覧になられたかと思います。印象はいかがですか。

大竹:とても気に入っています。今回のように色味や文字の入れ方まで相談しながら進めていただけることは珍しかったので、自分としても納得のいくものになりました。

私は、日本画とプリントは別物で「それぞれが作品」と捉えています。だからこそ、パッケージやプリントは再現性などにはこだわらず単体で成立するものにして欲しかった。それが実現できたと感じています。

——お客様へのメッセージ

生駒:感じたままに楽しんでください。もちろん、背景の想いや作品に込められた意図なども知っていただきたいですが、最初は私自身が感じたように「この作品と対峙する感覚」に意識を向け、自分の心にどのような変化が訪れるかを楽しんでいただきたいです。その上でお酒を飲んでいただければ、すばらしい体験になるとお約束します。

大竹:特別な体験をお楽しみいただきたいです。特に去年や今年は多くの人にとって“特別な年”でもあったと思います。その中でも、この百光は「良い特別」を持ってきてくれるもの。これを飲む時が、そんな“特別な瞬間”になってくれたら嬉しいです。また、お酒は誰かと飲むのが一番だと思いますから。是非、好きな方と一緒にお楽しみいただけたらと思います。

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